動画編集の代行、YouTubeへの出演依頼、企業案件など、YouTuberは、様々な場面で契約を締結することになります。
そこで前回は、契約書を作成する意義について解説しました。今回は、その続編として、ハンコの意味や弁護士に依頼する理由などについて解説します。
契約書にハンコは押す必要ある?
契約の成立のためには、そもそも契約書を作成する必要もなく、そうである以上、契約書への押印も当然不要です。
しかし、契約書はあくまでも証拠化のために作成するものです。
したがって、裁判となった場合に、証拠として有効な形で作成しなければなりません。
サイン(署名)も押印も存在しない書面は、Word等で打ち出してプリントアウトすれば誰でも作ることができ、当事者間で契約書が作成されたことを示す証拠にはなりません。
そのため、契約書には、必ず署名又は押印が必要となってくるわけです(民事訴訟法228条4項参照)。
鋭い人であれば、署名又は押印ということは、契約書にサイン(署名)すればハンコはいらないのではないか?と思うでしょう。
その通り、どちらかがあれば問題ありません。
ただ、いずれの場合でも、その署名が誰のものなのか、その押印が誰のものなのか、というのを立証できなければ意味がありません。
要は、「この署名は私のではない、誰かが私の名前を勝手に書いたのだろう。」とか、「このハンコは私のではない、誰かが私の名前のハンコを勝手に作ったのだろう。」と言わせないための証拠が必要となります。
それが、サイン証明書や、印鑑証明書なのです。
日本では、実印を押したうえで、印鑑証明書を提出する慣行が根付いているため、一般的に契約書にはハンコを押す、ということになるわけです。
ハンコ文化の無い海外の場合などは、契約書にサインし、サイン証明書を相手方に提出する場合が多く、海外企業との取引の場合に、日本企業が「サイン」と「サイン証明書」の方式で契約を締結しても、法的には何ら問題がないわけです。
法人との契約の場合、署名するのは窓口の担当者でいい?
答えはNoです。
法人と契約を締結する場合、あくまでも契約相手は法人となります。
法人との間で有効に契約を締結するには、法的な決定権限を持っている必要があります。
つまり、法人の代表権限を持っている必要があるため、原則としては、会社名に加えて、法人の代表者の氏名を記載することになります。
仮に担当者の名前を記載するような場合には、担当者が法人を代理して契約を締結するという整理になると考えられ、代理権を証する書面として会社から担当者への委任状などを取得する必要があります。
契約を弁護士に確認してもらう必要性
日本では、企業も個人も含め、まだまだ法的な観点に関するリスク認識が適切にできていない方が多いと思います。
その理由としては、上記に記載したような契約書の位置づけを認識していないからだと思います。
これに対して、契約書に関する認識を正しく持っている上場企業などでは、契約書を締結する際に、契約の重要性などに応じて、事前に弁護士に内容を確認してもらう場合が多いです。
あえて弁護士に依頼する理由としては、
・契約書に記載されていない事項については、民法等の法律が適用されることになります。そのため、契約書に記載がないために一方に不利益なルールが適用されてしまう場合があります。また、契約書に合意内容として記載したものの、法的に無効と評価される場合があります。このように、法的知識がないと、せっかく契約書で合意しても、思わぬ負担を強いられたり、適切なリスク認識ができなくなってしまいます。
・弁護士は、契約書に記載すべきリスク分担について熟知しており、紛争予防の観点から契約に盛り込むべき条項についてアドバイスすることができます。
・契約書の文言が曖昧であったり不正確となってしまうと、何か問題が起きたときに契約書を見返しても、様々な読み方ができてしまうため、かえって紛争の原因となってしまいます。弁護士は、裁判を念頭に置いた、正確で一義的な文章表現について訓練されているため、こうした紛争を予防することができます。
・裁判上証拠として機能しない形で締結してしまうと、契約書を残す意味がほとんどなくなってしまうため、弁護士に依頼することで、こうした事態を回避することができます。
などが挙げられます。
YouTuberにも契約書の作成は必要?
YouTuberの場合、YouTubeから受け取る収益のみを頼りにしている限り、契約書を作成する場面は少ないかもしれません。
しかし、企業案件などは、広告料も多額になりますし、また、企業の印象にも多大な影響を与える仕事です。
動画の掲載義務はいつまで負うのか、チャンネルが削除された場合はもらったお金はどうなるのか、不祥事を起こした時の賠償金額はどうなるのかなど、あらかじめ契約に定めておくべき事項は多いでしょう。
また、編集作業を完全に外注し、編集代行者に対して、継続的にまとまった代金を支払うような場合には、契約を締結して様々なルールを定めたほうがよい場合もあるでしょう。
さらに、他の人の動画や音楽を継続的に使用させてもらうような場合に、著作権に関する契約を締結したり、第三者に動画にゲスト出演してもらう際に契約を締結したりといったことが考えられます。
このように、YouTuberにも、様々な場面で契約を締結したほうが良い場面が想定されます。
以上が、契約書の意義に関する基本事項です。
YouTuberもビジネスである以上、契約書の意義を理解し、法的なリスクを適切にマネジメントするようにしましょう。