- 1. はじめに
- 2. ポケットモンスターシリーズの概略
- 3. ポケモンの著作権者は誰?
- 4. 著作権の基本事項
- 5. 各著作権者のガイドラインの公表状況(①)
- 6. 各タイトルのガイドラインの公表状況(②)
- 7. 動画投稿サービスの提供者等との包括契約(③)
- 8. ゲーム実況者との個別契約(④)
- 9. 黙認しているといえるか?(⑤)
- 10. 著作権侵害をしたらどうなるか
- 11. Step-pediaの考察
- 12. ゲーム実況者として取るべき態度は?
- 13. この記事の結び
1. はじめに
1996年2月27日に発売された「ポケットモンスター 赤・緑」を皮切りに、今なお爆発的な人気を誇るポケットモンスターシリーズ。ゲーム実況者なら、一度は「ゲーム実況したい」と思ったことがあるのではないでしょうか。
今回は、ポケットモンスターシリーズのゲーム実況について、著作権の観点から徹底的に分析します。
2. ポケットモンスターシリーズの概略
⑴ ポケモンとは?
ポケットモンスター、略称ポケモンは、1996年に「ポケットモンスター 赤・緑」を発売して以来約26年続いているゲームソフトシリーズです。
株式会社ポケモンのサイトによると、全ポケモン関連ゲームソフトの出荷累計本数は3億8000万本以上にのぼり、9つの言語に対応しているとあり、日本国内のみならず、海外でも非常に人気の高いシリーズだということがわかります。
また、その活躍はゲームに留まらず、アニメ、漫画、カードゲーム、キャラクターグッズなど、様々なメディアミックス展開が行われています。
2016年には位置情報を利用して遊ぶ「ポケモンGO」がスマホで配信され、社会現象になっていたのも記憶に新しいです。
⑵ 最近のポケモンゲーム
Nintendo Switch用のソフトとして、2022年11月18日に「ポケットモンスタースカーレット・バイオレット」が発売されました。
この作品は、完全新作の作品で、Pokemon Homeとの連携も発表されており、注目の作品です。
また、2022年1月28日には、ポケモンでは初めてとなるオープンワールド型のゲームである「Pokémon LEGENDS アルセウス」が発売されています。
少しさかのぼると、2021年7月・9月にはNintendo Switch、iOS・Androidで無料で遊べるゲームとしてPokémon UNITEが配信されています。Pokémon UNITEはMOBAと呼ばれる、チームにわかれプレイヤーがリアルタイムで対戦するジャンルのゲームで、ポケモンとしては初めてのジャンルのゲームになります。
他にも、スマホで遊べるゲームとしては「ポケモンGO」や「ポケモンマスターズ EX」をはじめ、複数のポケモンゲームが存在します。
このように、最近でも多数のゲームが積極的に展開され、今なお話題の中心となる存在であり、今後も人気が続いていくことが想定されます。
⑶ ポケモンゲームのハードウェア
ポケモンシリーズは、約26年も続いており、ゲームボーイやDSなど、ハードウェアも様々変遷しています。
最近のゲームでは、「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」及び「Pokémon LEGENDS アルセウス」はSwitch向けのみ販売されており、「ポケモンUNITE」は、Switch向けとスマートフォン向けのものが配信されています。
3. ポケモンの著作権者は誰?
⑴ ポケモンの著作権者
まずは、ポケモンの著作権者が誰か確認していきましょう。
ポケモンのオフィシャルサイトやゲームなどのホームページの最下部には、以下のようなCopyrightの表記があり、これにより著作権者が誰かを確認することができます。
©2022 Pokémon. ©1995-2022 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
この記載からは、ポケモンの著作者は株式会社ポケモン、任天堂株式会社、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズであることがわかります。
個別のゲームごとに確認する必要はあるものの、ポケモンシリーズは、基本的に株式会社ポケモン、任天堂株式会社、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズが保有しています。
また、ポケットモンスター、ポケモンや、「ピカチュウ」などの個別のポケモンの名称を商標登録を調べてみると、任天堂株式会社、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズの3社が権利者として登録されていることが確認でき、ポケモンの権利関係を3社で保有・管理していることが確認できます。
⑵ 資本関係
株式会社ポケモンは1998年4月に、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズの3社の共同出資によって設立されており、ポケモン株式会社の株式を、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズがそれぞれ保有している状況です。
任天堂のみ上場会社であるため、ポケモン株式会社に対する株式の保有割合も公表されていますが、その他の2社については非公開です。いずれにしても、ポケモン株式会社の重要な意思決定は、最終的には任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズの3社で行うこととなります。
任天堂株式会社、ゲームフリーク株式会社、クリーチャーズ株式会社相互間の資本関係は、詳細は明らかにされていないものの、少なくとも相互に支配関係にはないものと思われ、あくまでも完全に別の主体として意思決定がなされていると考えた方がよさそうです。
⑶ 会社の概要
① 任天堂株式会社
任天堂株式会社は、ご存じの通りSwitchやDSの展開など、ゲーム関連で広く事業を展開していますが、ポケモンとの関係では、ポケモンの販売元であり、玩具やゲームの企画・開発・販売などを行っています。
② 株式会社ゲームフリーク
株式会社ゲームフリークは、ゲームソフトの企画・開発・販売を行っている会社であり、ポケモンとの関係でも、これらの全部又は一部を行っていると思われます。
③ 株式会社クリーチャーズ
株式会社クリーチャーズは、ゲームソフトの開発、カードゲームの開発、3DCGの開発、映像・音楽・書籍・Webコンテンツ・玩具などの企画・制作などを行っている会社であり、ポケモンとの関係でも、これらの全部又は一部を行っていると思われます。
④ 株式会社ポケモン
ポケモンの発売元であり、上記3社による共同出資で設立された会社です。
当初は店舗運営事業を担い、ポケモンセンターを運営する会社として設立されましたが、2000年10月からは事業の範囲をポケモンブランド全般のプロデュースやライセンス事業へと拡大しています。
現在では、ゲーム・カードゲーム・アプリ・映像などの開発やプロデュース、ライセンス事業、ポケモンセンターなどの店舗運営など、ポケモンに関する多くのことを行っています。
4. 著作権の基本事項
⑴ 5つの許諾パターン
「ゲーム」は、著作物法上の著作物であり、著作権法の保護を受けるものであるため、ゲーム実況を行う場合、他者の著作物を利用することになります。
そして、日本では、法律上、著作権の保護を受けるためには、何らの手続きも必要ないとされています。したがって、市場で流通しているほぼすべてのゲームが、著作権法の保護を受けている状態と考えて良いでしょう。
そのため、無断でゲーム実況を行えば、著作権侵害となり、最悪の場合逮捕・起訴され、刑事罰が科せられる可能性があるため、注意が必要です。この点の詳細は以下の記事にまとめているので、ぜひ参照してみてください。
もっとも、現状行われているゲーム実況の全てが違法なわけではなく、著作権者の許諾の範囲内でゲーム実況を行えば、ゲーム実況を合法的に行うことができます。
そして、著作権者が許諾しているパターンとしては、概ね以下の5つが存在します。
① 著作権者が広く認めている場合(ガイドラインの公表等)
② 著作権者が個別のタイトルについて認めている場合(ガイドライン公表等)
③ 動画投稿サービスの提供者等が著作権者と契約している場合
④ ゲーム実況者と著作権者が個別に契約している場合
⑤ 著作権者が黙認している場合
上記のいずれかに該当する場合、ゲーム実況を合法的に行うことができることになります。なお、詳しい解説は以下の記事で詳しくまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
⑵ 著作権者が複数の場合
上記に加えて、著作権者が複数存在する場合(著作物が共有著作物である場合)は、注意が必要です。
共有著作物は、その共有者全員の合意によらなければ行使することができないとされており、この「行使」には、第三者への著作物の利用許諾も含まれます。
すなわち、ゲーム実況をする場合、著作権者の一部からの許諾では足りず、すべての著作権者から許諾を得る必要があります。
著作権法65条2項
共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。
これに対して、著作権者が、第三者に著作権を侵害された場合については、単独で、侵害者に対する損害賠償請求等を行うことができます。すなわち、一部の著作権者から許諾を得ていたとしても、他の著作権者から損害賠償請求等をされる可能性があります。
著作権法117条
共同著作物の各著作者又は各著作権者は、他の著作者又は他の著作権者の同意を得ないで、第百十二条の規定による請求又はその著作権の侵害に係る自己の持分に対する損害の賠償の請求若しくは自己の持分に応じた不当利得の返還の請求をすることができる。
著作権法112条
一 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
二 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。
5. 各著作権者のガイドラインの公表状況(①)
⑴ 任天堂株式会社
任天堂は、ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドラインを公表し、ルールに従った形での著作物の利用を認めています。ゲーム実況についても適用があるため、任天堂の著作物については、ゲーム実況が可能です。
但し、あくまでも許諾の対象は、任天堂の著作物であり、当該著作物の利用については、任天堂自身が著作権侵害の主張を行わないことを明示しているにとどまります。つまり、任天堂以外に著作権者が存在する場合に、当該著作権者からの著作権侵害の主張については、ガイドラインとは無関係ということになります。
任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。あらかじめご了承ください。
また、第三者が知的財産権を有するコンテンツが利用されている場合には、当該部分は許諾の対象外となっている点に注意が必要です。
投稿に任天堂以外の第三者が有する知的財産権が利用されている場合、このガイドラインとは別に、その知的財産権の権利者から許諾を得る必要があります。
したがって、ポケモンシリーズについても、任天堂との関係では、上記ガイドラインを遵守している限り、著作権侵害の主張は行われないと考えられますが、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズ、その他の著作権者との関係では、上記ガイドラインは許諾の根拠とはなりません。
なお、任天堂は、2018年11月29日に「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公表しましたが、その前から、「Nintendo Creators Program」という収益をゲーム実況者と任天堂でシェアするサービスを展開しており(同サービスは、上記ガイドラインの公表に伴い、終了。)、このNintendo Creators Programにおいても、各種ポケモンは対象外とされていました。
Nintendo Creators Programの対象外となっていた理由は、任天堂のみの著作物ではなく、かつ他の著作権者との間で許諾対象とする旨の合意もなされていなかったためと考えられます。
なお、任天堂の公表しているガイドラインの詳細は以下をご参照ください。
⑵ 株式会社ゲームフリーク
2022年2月時点では、ゲームフリークの著作物一般に関するガイドラインは公表していません。
⑶ 株式会社クリーチャーズ
2022年2月時点では、クリーチャーズの著作物一般に関するガイドラインは公表していません。
⑷ 株式会社ポケモン
2022年2月時点では、ポケモンの著作物一般に関するガイドラインは公表していません。
⑸ その他の著作権者
ポケモンシリーズは、著作権者として任天堂株式会社、株式会社ゲームフリーク、株式会社クリーチャーズ、株式会社ポケモンの4社がクレジットされていることがほとんどですが、ゲームソフトによっては、他にも著作権者が存在する場合があります。
ゲームソフトの公式サイトの末尾や、ゲームソフトの説明書などに「Copyright」や「©️」といった表示があり、著作権者が誰であるか表示されているので、それを確認する必要があります。
6. 各タイトルのガイドラインの公表状況(②)
2022年2月現在、ポケモンシリーズについては、株式会社ポケモンが発売・販売元となっている「ポケモンUNITE」のみ、ガイドラインを公表しております。
「ポケモンUNITE」は、「Tencent」が著作権者としてクレジットされているため、Tencentも著作権者であると考えられますが、ポケモンUNITEのガイドラインは、ポケモンが単独で公表しており、Tencentを含む他の著作権者の名前は記載されておりません。
しかし、個別のタイトルについてゲーム実況ガイドラインが公表されている場合は、すべての著作権者の同意のもとにガイドラインを公表していると考えられるため、当該ガイドラインに従ったゲーム実況が可能になると考えてよく、したがって、以下のゲーム実況ガイドラインは、ポケモン名義でのみ出されたものではありますが、Tencentや他の著作権者も含めて許諾していると考えてよいでしょう。
なお、ポケモンUNITE以外のタイトルについては、ゲーム実況ガイドラインは公表されていません。
7. 動画投稿サービスの提供者等との包括契約(③)
著作権者や、著作権を管理している団体が、YouTubeなどの動画投稿サービスと包括契約を締結している場合があり、その場合には、当該動画投稿サービスにおいては、一定のルールで当該著作権者の著作物を利用することができるようになります。
例えば、楽曲の例ではありますが、YouTubeは、JASRACと包括契約を締結しているため、一定のルールのもと、JASRACの管理している楽曲が使用できるようになります。
もっとも、2022年2月時点では、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンのいずれも、YouTube等のゲーム実況を行える動画投稿サービスとの間で包括契約を締結している旨の公表はなされていません。
8. ゲーム実況者との個別契約(④)
任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンとゲーム実況者との間で、個別契約を締結すれば、当該契約に従ってゲーム実況を行うことができるようになります。
単なる個人ではなく、大物YouTuberや、YouTuber事務所を介した交渉の余地はありうるのかもしれませんが、ポケモンほど著名なゲームとなると、個人で契約交渉は門前払いされる可能性が高いものと思われます。実際、株式会社ポケモンのライセンスに関するお問い合わせ窓口には、「※個人のお客様へのライセンス許諾は行っておりません。」と記載されており、申請をしても取り合ってもらえない可能性が極めて高いと言えます。
ゲーム実況者と著作権者の個別契約により個別的に利用を許諾している可能性があることは、どちらかというと、有名人や大物YouTuberがポケモンのゲーム実況をしていても、個別契約に基づいてゲーム実況を行っている可能性があるため、安易に真似してはいけない、という点において重要な事実と言えるでしょう。
9. 黙認しているといえるか?(⑤)
⑴ ゲーム実況の状況
それでは、現状黙認しているといえるのかを検討してみましょう。
まず、ポケモンに関するゲーム実況の状況としては、YouTube、ニコニコ動画、Twitch、OPENRECを始めとする様々な動画投稿プラットフォームに、かなり多くのポケモンのゲーム実況動画が投稿されています。
また、2022年2月現在では、「Pokémon LEGENDS アルセウス」が発売されたばかりということもあり、アルセウスのライブ配信動画も多数配信されています。
そして、投稿者の属性も多岐にわたり、日本のみならず、海外の投稿も数多く存在します。アルセウスの発売に合わせて、英語の投稿、フランス語の投稿、ドイツ語の投稿、中国語の投稿、韓国語の投稿などが確認でき、ポケモンシリーズのゲーム実況動画の配信は、世界中で行われているものということがわかります。また、事務所に所属していないであろう個人の投稿はもちろん、事務所に所属しているYouTuberやVtuberも数多く投稿しています。
更に、YouTubeにおけるポケモンのゲーム実況動画は、100万再生を超えるような動画がいくつも存在します。また、確認できただけでも、2007年に投稿されたポケモンのゲームプレイ動画(実況はない)や、2013年に投稿されたポケモンのゲーム実況動画が未だに削除されずに残っています。
このように、世界的に多数の動画投稿がなされ、かつ一部については長期にわたり放置されているという現状があります。
もちろん、アニメの違法アップロードなども放置されてしまっているものもあり、放置されているから直ちに黙認している、とまで言えない側面もありますが、これだけの規模となると、「黙認している」という評価も十分ありうるのではないかと思います。
⑵ 動画投稿サービスによるチャンネル設定・カテゴリ設定の存在
YouTubeでは、独自の動画検出システムを構築し、ゲームタイトルごとのチャンネルを自動生成される仕組みがあり、当該チャンネルには、当該ゲームタイトルに関連するゲーム実況動画が表示されます。
ポケモンのアルセウスについても、以下のように、自動生成チャンネルが作成されており、関連するゲーム実況動画が一覧表示される仕組みになっています。また、ポケモンシリーズの過去のタイトルも同様の取り扱いになっています。
また、Twitchや、OPENRECでもカテゴリーとしてポケモンシリーズのソフトが存在し、視聴者はポケモンシリーズのゲーム実況動画に容易にアクセスできる仕組みとなっています。
このように、動画投稿サービス自体が、ポケモンシリーズのゲーム実況動画に一定の関与をしているにもかかわらず、これらに対してポケモンの著作権者は何らの対応を取っておらず、この点からも黙認していることが推認されます。
⑶ 著名人によるゲーム実況の事例
日本では、多数の有名人がポケモンのゲーム実況をしています。
有名な方でいうと、本郷奏多さん、中川翔子さん、花江夏樹さん、ロバートの山本ひろしさん、あばれる君さんなどがポケモンのゲーム実況動画を投稿しているようです。
もっとも、事務所に所属しているタレントの方々は、ポケモンの著作権者との間で個別契約を締結している可能性があるため、これらの方々投稿していることを持って黙認しているということは直ちに言えるものでない点に注意が必要です。
⑶ ポケモンゲーム実況動画の削除活動の有無
著作権者が、地道に著作権侵害を理由とした動画の削除のための活動を行っていれば、当該著作権者は、著作物の利用を黙認していないといえるでしょう。
しかし、2022年2月時点では、ポケモン動画が権利者の申請により順次削除されているという情報はなく、特段の対策はなされていないようです。
なお、YouTube動画については、「Studio71_1_2」と名乗る申立人により、一斉に著作権侵害の申立てがなされた事例があるようですが、YouTubeでは、著作権侵害の申立てを受ける際、申立人が著作権者であるか否かを確認するシステムを採用していません。
そのため、著作権者以外の申立人による嫌がらせ等の目的による著作権侵害の申立てを行えてしまう点に注意が必要です。
したがって、著作権侵害の申立てがなされた場合で、申立人が「Pokemon」などと名乗っている場合でも、それが株式会社ポケモンが行っているものであるか、確認する必要があります。このあたりの事実関係は慎重に判断する必要があります。
なお、ポケモン関連の動画については、以下の画像(後述のポケモンFPSの動画です。)のように、株式会社ポケモンが削除に関する活動を行っており、正式な申請は、「The Pokémon Company International, Inc.(TPCi)」名義で行っているようです。
株式会社ポケモン以外の3社が削除に関する活動を行うこともありえるので、上記名義でないから直ちに嘘である、と決めつけることはできませんが、一つの参考になると思います。
もっとも、著作権侵害の申立て等の活動を積極的に行っていないからといって、直ちに著作物の利用を黙認しているとまでは言えない点に注意が必要です(この点は最後にもう少し考察します。)。
⑷ ポケモンに関する過去の事案の検討
① ポケモンFPS事件
海外の個人のプログラマーが、自ら製作した「Pokémon First Person Shooter」というゲームのプレイ動画を、YouTubeや、Twitterなどにアップロードし、これらの動画が一斉に削除されるという事案が発生しました。
ゲームの内容は、ポケモンを銃器を使って射殺するゲームで、ポケモンに向けて発砲すると、血しぶきをあげ、体力ゲージが0になると倒れる、というショッキングな内容になっています。
この動画は、2022年1月17日に投稿され、1月24日頃にはYouTube、Twitter上のすべての動画が削除されるという事態に発展しました。
Twitter上では、以下のように、「このメディアは、著作権者からの申し立てにより無効になりました。」と表示されます(アイコンは個人の顔写真であり、かつ本人のものであるかも不明であるため、モザイク処理をしています。)。
また、このプログラマーのYouTube動画にアクセスすると、以下のように、「The Pokémon Company International, Inc.(TPCi)」からの申し立てにより動画が削除された旨が表示されます。
【YouTube上で表示した場合】
【埋め込み動画の場合】
このプログラマーのYouTubeチャンネルは、2022年1月29日現在、すべての動画が削除されており、ポケモンの対応の早さがうかがえます。
この事案では、キャラクターイメージを毀損するものであること、子供の目に容易に触れるものであり、かつ子供への悪影響が懸念されることから、迅速な対応が行われたものと思われます。
② ポケモン同人誌事件
女性作家が、1998年8月に、ピカチュウ、サトシなどのポケモンのキャラクターがわいせつな行為をする同人誌を販売したところ、著作権法違反の疑いで逮捕、起訴された事件です。
任天堂に寄せられた苦情をきっかけに、ポケモンの著作権者である任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリークの3社が1999年1月5日に当該女性作家を、著作権法違反で刑事告訴しています。
1998年8月の販売から、わずか半年後の1999年1月5日に刑事告訴に至っており、こちらもポケモンの対応の早さがうかがえます。
この事件に関し、日曜出版社の石川氏が、任天堂のコメントを入手したとしてこれを公表しています(現在は当該ページは削除され、アーカイブからの引用です。)。
今回特に注視したのは、問題となった同人誌が通販主体であったこと。通販は対面販売でないだけに、相手を見極められません。子供でも簡単に入手可能です。任天堂としては小さな子供に対する悪影響を非常に心配しています。
任天堂側の立場として、どのような種類の同人誌やグッズを問題視するのかという点については、キャラクターの種類、グッズの形、内容、発行(製造)部数、取引形態等を十分吟味し、総合的に判断していくことになると思います。
また、開発者は、キャラクターのイメージをとても大切にしており、自らが制作したキャラクターが自分のイメージとは違う変な形で描写・表現されることを好ましく思いません。
そして著作権者としては、あのような同人誌がポケモンファンである小さなお子様の目に触れたら、子供たちの夢や希望を壊すことになり、許されることではないと考えております。
同人誌やグッズに関するものであり、かつ1999年当時のものではありますが、①キャラクターイメージを毀損するものであるか、②子供への影響の有無、程度の2点を最重要視しつつ、③取引内容や規模を含めて総合的に判断していくとしている点が重要であると思われます。
また、この事件では、警告等を行うことなく、いきなり刑事告訴に踏み切っていますが、この点は、警告をしても、別のルートや名称での販売が行われた場合に対処できないこと、そもそも所持している同人誌を廃棄したかを確認できないという不確実性や、民事訴訟の場合には長期間の時間を要することなどから、刑事告訴に踏み切ったようです。この点も、おそらく子供への影響を考えたうえで、迅速な対応を模索したものと思われます。
③ モンスターボール型バッテリー
ポケモンは、2016年12月22日に、モンスターボール型バッテリーに関し、以下のような声明を公表しています。
現在、不特定多数の家電販売店やオンライン販売サイトなどにおいて、弊社およびそのグループ会社が管理・所有する著作物や商標を無許諾で使用した、下記製品(モバイルバッテリー)が数多く販売されております。
これらの商品は、弊社商品あるいは正規のライセンス商品であれば実施している安全性の確認テストを、弊社では実施していないものとなります。私どもでは、これらの商品につきまして、著作権法ならびに商標法に違反する侵害品として、各販売会社に対しての販売停止措置を進めているほか、発売会社に対する法的措置を含め調査・検討しております。
著作権侵害に関する事例とはやや異なりますが、①消費者の安全性に関するものであること、②事業規模などを考慮した対応であると考えられます。
④ その他の事例
ポケモンゲームの不正行為(いわゆるチート行為)や、公開前のポケモンの事前公開などについても、厳しい態度を取っています。
⑸ 問い合わせ結果
Step-pediaでは、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンの各社に問い合わせを行いました。
① 任天堂株式会社
2021年11月頃に以下の内容で問い合わせフォームから問い合わせを行ったところ、翌日に回答があり、質問事項に関する問い合わせは、株式会社ポケモンにお願いします、とのことでした。
やはり、ポケモンシリーズについては、任天堂のガイドラインの対象とは考えていないということかと思います。他方で、株式会社ポケモンに対応を一任していることもうかがえます。そのため、後述の株式会社ポケモンへの問い合わせ結果をご参照ください。
問い合わせ事項
ポケモンシリーズの静止画・動画等の利用について、以下のi.~iii.のいずれであるか。
i. 任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンの4社の著作権者間において、販売元がガイドラインを設定することができる旨の合意等があり、「ポケモンUNITE」については株式会社ポケモンの設定するガイドラインに、その他のポケモンシリーズのうち貴社が販売元となっているものについては、貴社の設定するガイドラインに、それぞれ従えば、動画や静止画等を利用することができる。
ii. あくまでも静止画・動画等の利用については、著作権者である4社全ての同意が必要であって、貴社以外の3社が個別に同意しない限りは、ポケモンシリーズは貴社のガイドラインの適用対象外であるため、ポケモンシリーズのうち、個別にガイドラインを公表しているもの以外は、動画や静止画を利用することができない。
iii. その他
問い合わせ先
② 株式会社ゲームフリーク
株式会社ゲームフリークは、ポケットモンスターに関するお問い合わせ先として、株式会社ポケモンの運営するポケットモンスターオフィシャルサイトが指定されています。
この点から、株式会社ポケモンに対応を一任していることがうかがえます。そのため、後述の株式会社ポケモンへの問い合わせ結果をご参照ください。
問い合わせ先
③ 株式会社クリーチャーズ
2021年11月頃に以下の内容で問い合わせフォームからの問い合わせを行ったところ、クリーチャーズでは回答ができないため、ポケモンカスタマーサービスに問い合わせて下さい、との回答がありました。
この点から、株式会社ポケモンに対応を一任していることがうかがえます。そのため、後述の株式会社ポケモンへの問い合わせ結果をご参照ください。
問い合わせ事項
i. 個人、法人等のユーザーに対し、一律に許諾する取り扱いはしているか。任天堂のガイドラインに従えばゲーム実況等静止画・動画を利用することは可能であるか、それとも、別途貴社の指定するルール等があるか。
ii. 著作物の利用に関するルールを今後公表する予定はあるか。
iii. 一律に許諾していない場合、個別に許諾を得ることは可能か。また、その場合の条件は何か。
iv. 上記のいずれにおいても許諾をしていない場合、現在、YouTube等にアップロードされているポケモンシリーズのゲーム実況動画については、どのようなご方針か(削除要請予定、刑事告訴予定、削除要請中であるが追いついていないなど)。
問い合わせ先
④ 株式会社ポケモン
④-1 問い合わせフォームからの問い合わせ
さて、肝心のポケモンですが、2021年11月頃に以下の内容で問い合わせフォームからの問い合わせを行いましたが、2022年2月時点で回答はありません。
問い合わせ事項
i. 個人、法人等のユーザーに対し、一律に許諾する取り扱いはしているか。任天堂のガイドラインに従えばゲーム実況等静止画・動画を利用することは可能であるか、それとも、別途貴社の指定するルール等があるか。
ii. 著作物の利用に関するルールを今後公表する予定はあるか。
iii. 一律に許諾していない場合、個別に許諾を得ることは可能か。また、その場合の条件は何か。
iv. 上記のいずれにおいても許諾をしていない場合、現在、YouTube等にアップロードされているポケモンシリーズのゲーム実況動画については、どのようなご方針か(削除要請予定、刑事告訴予定、削除要請中であるが追いついていないなど)。
問い合わせ先
④-2 電話での問い合わせ
また、以下の窓口に、電話での問い合わせをしてみたところ、ポケモンサポート情報に記載されていること以外は電話での回答はできない、とのことでした。メールで問い合わせを行えば、回答が可能かもしれない、とのことでしたが、上記の通り、メールでの質問には現時点では回答はありません。
問い合わせ事項
ポケモンのゲーム実況動画の配信を行いたいが、許可が必要か。
問い合わせ先
ポケモンカスタマーサポートセンターに記載される電話番号
10. 著作権侵害をしたらどうなるか
⑴ 刑事罰のリスク
次に、著作権侵害の場合にどのようなリスクが生ずるのかを見ていきましょう。
まず、著作権侵害は、①十年以下の懲役若しくは②千万円以下の罰金、又は③その両方が科せられます。
著作権法第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
もっとも、著作権侵害は、その多くが親告罪とされており、告訴がなければ起訴することができません。そして、告訴とは、告訴権者(被害者等)が捜査機関に対して、処罰を求めて意思表示をすることを言います。すなわち、ゲーム実況の場合は、著作権侵害をされた著作権者が、違法なゲーム実況者を処罰してほしい旨の意思表示を捜査機関に行った場合に限って、刑事上の処罰が可能となります。
なお、著作権法(2018年末施行)が改正され、一部の著作権侵害が非親告罪化(つまり、著作権者の告訴を待つまでもなく刑事上の処罰が可能)されました。
もっとも、非親告罪とされたのは、「原作のまま」複製等を行ったような、いわゆるデッドコピーのケースのみ(ゲームを複製して販売・配布するなど)です。したがって、一般的なゲーム実況については、親告罪と考えてよいでしょう。
著作権法第百二十三条
第一項 第百十九条第一項から第三項まで、第百二十条の二第三号から第六号まで、第百二十一条の二及び前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第二項 前項の規定は、次に掲げる行為の対価として財産上の利益を受ける目的又は有償著作物等の提供若しくは提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的で、次の各号のいずれかに掲げる行為を行うことにより犯した第百十九条第一項の罪については、適用しない。一 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。次号において同じ。)を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。二 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信を行うために、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該複製の部数及び態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
したがって、法的には、許諾を得ずに行ったゲーム実況については、著作権者が告訴を行えば、刑事罰が科される可能性が生ずることになります。
⑵ 賠償のリスク
著作権侵害を行うと、著作権侵害行為によって生じた著作者の損害を賠償したり、著作権侵害によって不当に得た利益を支払う義務が生ずる可能性があります。
したがって、著作権者が請求してきた場合には、賠償責任を負うリスクが生ずることとなります。
⑶ 動画削除のリスク
著作権侵害を行った場合、著作権者は、訴訟を提起し、権利侵害を停止するよう請求することができます。
また、YouTubeを含む多くの動画投稿サービスでは、著作権侵害の動画を削除する仕組みを作っているため、訴訟に至らずとも、動画が削除される可能性があります。
したがって、著作権者が請求してきた場合には、動画が削除されるリスクが生ずることとなります。
⑷ 収益化停止のリスク
YouTubeを含む多くの動画投稿サービスでは、何らかの犯罪行為や、規約に反した動画については、収益化の対象から除外する仕組みが取られていることがほとんどです。
したがって、著作権者が請求してきた場合には、収益化が停止されるリスクが生ずることとなります。
⑸ アカウント削除のリスク
YouTubeであれば、YouTubeチャンネルの停止等の措置がなされる可能性があります。また、その他の動画投稿サービスでも、著作権侵害を規約違反としている場合がほとんどであり、最悪の場合アカウント削除に至る場合がほとんどでしょう。
したがって、著作権者が請求してきた場合には、アカウントが削除されるリスクが生ずることとなります。
著作権侵害に関するリスクの詳細は、以下の記事をご参照ください。
11. Step-pediaの考察
⑴ 明示的な許諾の有無
ポケモンシリーズのゲーム実況は、一部のソフトを除いて、ガイドライン等は公表されておらず、明示的に許諾はされていません。また、個人で個別的に許可を取得することも事実上できません。
⑵ 黙認の可能性
有名人に関しては個別に許諾を取得してる可能性もあるものの、ポケモンのゲーム実況動画は、日本のみならず多数の動画が投稿されており、また、任天堂がガイドラインを公表するよりも前の動画も未だに削除されていません。
ポケモンのゲーム実況動画の数や話題性、更には任天堂自身が、ゲーム実況に関するガイドラインを公表しているからすると、ポケモンのゲーム実況動画の存在をまだ知らないということは到底考えられません。
他方で、ポケモンシリーズに対する権利侵害は、「ポケモンFPS」や「ポケモン同人誌事件」など、ポケモンのイメージを毀損するような、子供に悪影響を与えるような権利侵害については、極めて迅速な対応が行われてきました。
このような事情を考慮すると、ポケモンシリーズについては、著作権者の4社は、ポケモンのゲーム実況動画を黙認しているものと考えられます。
⑶ 今後の可能性
もっとも、ポケモンシリーズに関するゲーム実況動画について、著作権者である各社が明示的な対応を取っていない以上、今後どうなるのかは不透明と言わざるを得ず、今後の予想を立てつつ行動し、最新の情報にアンテナを張っておくことが重要といえるでしょう。
① 現状黙認しており、今後も黙認の状況が続く(75%)
Step-pediaでは、上記の事情を総合的に考慮すると、75%くらいの確率で、現在黙認している状況があり、かつ、今後も黙認の状況が続くのではないかと考えています。
ゲーム実況市場が拡大し、任天堂を含む各社がガイドラインを出しつつある中で、ポケモンシリーズについては、一部の例外があるものの、最新のゲームソフトを含め指針が示されておりません。既に任天堂がガイドラインを出してから3年以上が経過しており、ゲーム実況動画と売り上げの関係を判断するために様子を見ているとも言いにくいと思います。
もともと、ゲーム実況動画は、著作権者の承諾を得ない形で発展した著作権侵害を伴う文化であったものの、ゲーム売り上げとの関係で配信者と著作権者がWinWinとなる側面があるために、各社がガイドラインを出すことで、むしろそれらを促進してきた背景があります。
これらの事情からすると、ポケモンに限っては、そこまで積極的にゲーム実況動画を推進しなくとも、十分なネームバリューがあるため、ガイドラインを出す必要を感じていないものと思われます。
他方で、多数の動画が長期間にわたって削除等なされておらず、かつ法的措置の対象ともなっていないところ、ポケモンシリーズのゲーム実況動画を有害なコンテンツと考えているわけではないと考えられます。
すなわち、①ゲームの売り上げのためな積極的な戦略としてゲーム実況動画を見ておらず、それゆえにガイドラインを出すことはしないものの、②ファンの楽しみの一つとして認めている側面があり、ポケモン同人誌事件の任天堂コメントから見える同人誌等に対する態度と同様に、ポケモンのイメージを害するか、子供への影響があるかという観点を重要視した、総合的な考慮のもとに、公認はしないけれど一定の範囲では黙認する、という方針のように思われます。
② 今後ガイドラインが開示され、明示的な許諾に変わる(20%)
ポケモンは、ポケモンUNITEについてはゲーム実況に関するガイドラインを公表しています。
その後に発売された「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」や「Pokémon LEGENDS アルセウス」についてはガイドラインが公表されていないところ、ポケモンシリーズについても、新しいゲームについては順次ガイドラインを出していく方針、ということまでは言えないと思われます。
ではなぜポケモンUNITのみガイドラインを出しているのか、という点ですが、ポケモンUNITEは、任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンの4社以外の著作権者が存在します。任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズ、ポケモンは、ポケモンシリーズを共同して展開しており、かつ資本関係も存在するところ、いわゆる内輪な関係ということができると思います。しかし、上記4社以外の著作権者との関係では、内輪な関係というわけにもいかず、当該著作権者との関係で、権利関係をはっきりさせる必要があり、ガイドラインを公表したものと思われます。
しかし、今後ゲーム実況動画の市場の重要性がより鮮明になったり、ポケモンUNITEのガイドライン公表によるプラスの効果が出れば、可能性としては高いとは言えないものの、20%程度の確率で、ポケモンシリーズに関するガイドラインを公表し、明示的に許諾する、という方針に変わることも考えられると思います。
また、ポケモンシリーズのゲーム実況動画のうち、ポケモンのイメージを損ねる動画や子供に悪影響の出る動画、許容しえない収益化方法など、一部のゲーム実況動画のみを削除等する必要性が生じてきた場合、それらへの対処がポケモンのゲーム実況動画全体に影響を与えないよう、ガイドラインを出すということも考えうると思われます。
その意味では、ポケモンFPS事件を踏まえて、近々改めてポケモンシリーズの二次的な利用に関し、何らかの指針が示される、ということは十分考えられると思われます。
③ ゲーム実況の禁止が明示される(5%)
可能性は低いものの、ガイドライン等を明示していない以上、禁止という方針を取る可能性も否定はできないものと考えられます。もっとも、可能性としては低く、高く見積もっても5%程度の確率と思われます。
但し、ポケモンシリーズはあくまでも営利目的で販売等を行っているのであり、例えば、ゲーム実況動画が、かえってゲーム売り上げにマイナスの影響を与えるという風潮になり、各社がガイドラインを撤廃して明示的に禁止するなどの流れになった場合には、ポケモンシリーズについても、同様に明示的に禁止の方向に流れることもありうるものと思われます。
⑷ 収益化はNGか?
仮に黙認しているとすると、収益化は、ゲーム実況における一般的な収益方法(動画再生における広告の表示による収益化や投げ銭など)を採用する限り、許容されうると考えられます。
任天堂が出しているガイドラインでも一定の範囲で収益化を許容していることに加え、ポケモン同人誌事件の任天堂コメントを前提とすると、同人誌等の活動についても利益を得ていることから直ちに否定するのではなく、一定の範囲であれば、許容する態度を示していると言えます。
⑸ いきなり刑事罰に処される可能性はあるか?
仮に今後任天堂等の著作権者が、今後著作権侵害を理由とした措置を取る場合でも、直ちに刑事罰の対象になることは想定しにくいと思われます。
ゲーム実況動画は世界中で行われており、かつその動画数も数多く、長期間にわたって放置してきたにもかかわらず、いきなり刑事罰の対象とすると、インパクトが極めて大きく、ポケモンファンや、世間・世界の反感を買う可能性が高いためです。
また、ポケモン同人誌事件では、警告を発しても販売等が取りやめられるかわからず、告訴以外の方法が、手間のかかる割に実効性が低かったという事情がありました。これに対し、ゲーム実況動画は、動画の削除の手続きは、法的手続きよらずに、YouTube等のプラットフォームの指定する手続きで簡易に行うことができ、かつ、それらの活動を開始すれば、その噂は直ちに広がり、ゲーム実況動画を自主的に削除するクリエイターが増えると考えられるところ、告訴よりも手間もかからず、コストもかからない手法があるところ、一般的なゲーム実況動画については、いきなり刑事告訴を行う、という対応は考えにくいと思われます。
⑹ いきなり損害賠償を請求される可能性はあるか?
いきなり刑事罰が課されるか、という点と同じ理由から、仮に今後任天堂等の著作権者が、今後著作権侵害を理由とした措置を取る場合でも、一般的なゲーム実況動画については、直ちに損害賠償請求等の措置を取ることも想定しにくいと思われます。
⑺ いきなり動画削除の請求をされる可能性はあるか?
また、仮に今後任天堂等の著作権者が、今後著作権侵害を理由とした措置を取る場合でも、一般的なゲーム実況動画については、直ちに動画削除の申請をすることも想定しにくいと思われます。
刑事罰において述べたことと同様ですが、ゲーム実況動画は世界中で行われており、かつ動画数も多く、長期間にわたって放置してきたにもかかわらず、いきなり動画削除を始めると、やはりインパクトが極めて大きく、ポケモンファンや、世間・世界の反感を買う可能性が高いものと思われます。
従来黙認してきたという背景を踏まえ、今後禁止とする方針を取ることを明示し、またその背景を説明しつつ、一定の猶予期間を設けつつ、動画配信者の自主的な削除をまずは促すものと思われます。もちろん、それを無視して動画を削除しなければ、削除請求等の措置がなされるでしょう。
12. ゲーム実況者として取るべき態度は?
⑴ 自分自身で納得できるように判断する
Step-pediaの見立ては、上記の通りであり、黙認されていると考えております。
もっとも、Step-pediaの意見を信じたからといって裁判や刑事手続きなどで有利に働くわけもなく、あくまでも様々な事情を考慮しながら、最後は自己責任で判断する必要があります。
Step-pediaでは、ポケモンシリーズのゲーム実況については、過度に委縮する必要はないとは考えていますが、最後に責任を負うのは自分自身に他なりません。そのため、上記に記載したような個別のリスクを、ご自身で判断する必要があります。
⑵ 配信すると決めたら注意することは?
① 任天堂のガイドラインを遵守すること
ポケモン同人誌事件や、ポケモンFPS事件を踏まえ、任天堂等の著作権者が禁止事項ととらえていることを行わないことが極めて重要です。
すなわち、ポケモンの世界観やイメージを阻害しないこと、子供に悪影響を与えるような内容としないこと、ゲーム実況動画そのものの販売など、一般的なゲーム実況の収益化手法を超えた過度な商業化を行わないことなどが特に重要です。
これらの点を網羅する上でも、また、ポケモンの著作権者の一社である任天堂の考えを反映しているという意味でも、任天堂の公表しているゲーム実況ガイドラインを遵守することは極めて重要と言えます。
また、同様の理由から、ポケモンUNITEのガイドラインについても押さえておくことが大切です。
② 最新の動向を常にチェックすること
そして、常に最新の動向をチェックすることが大切です。ポケモンシリーズに関して何らかの指針が公表された場合、それらを遵守する必要があります。
例えば、ゲーム実況動画の配信後にガイドラインが公表され、すでに配信した動画が当該ガイドラインに反する場合には、動画を削除するか、ガイドラインに反さない形に修正したうえで投稿しなおす必要があります。
面倒なようですが、他社の著作物を勝手に利用する以上、やむを得ないことでしょう。
Step-pediaでは、最新の動向追いつつ、適宜記事の公開や、当該記事のTwitter上での告知などを行う予定です。
③ 権利者からの請求が来たら早急に対処すること
また、万が一著作権者からの何らかの請求を受領した場合、直ちに応答し、誠実に、そして適切に対処する必要があります。
権利者以外からの請求がなされることもあり、冷静に判断する必要がありますが、請求を受けた場合には、まずは事実確認を適切にすることが重要です。
13. この記事の結び
ポケモンシリーズのゲーム実況は、様々なゲーム実況者が悩み、様々な判断のもと行っているものと思います。
ゲーム実況をするという判断も、しないという判断も、現状ではどちらもありうるものであり、現状では正解はないということになると思います。
この記事で得た現状分析を踏まえ、Step-pediaの見立てを参考にしつつ、判断の一助となればうれしい限りです。
2022年11月18日は、新作の発売をしたばかりで、一般論として、発売直後は検索数が増えるものの、動画数が少ないため、ゲーム実況者としてはチャンスといえます。
しかしながら、ポケモンスカーレット・バイオレットについても、ガイドラインは現状公表されておりませんので、ゲーム実況をするという判断をする場合には、しっかりと本記事を読み、発売後のゲーム実況動画の配信に備えましょう。
最新作は以下のリンクから購入できます。
Step-pediaでは、ゲーム実況者の方向けに様々な記事を執筆しております。ぜひ、以下の記事もご参照ください。
なお、本記事は、現状の分析と、それを踏まえたStep-pediaでの見立てであり、ポケモンシリーズに関するゲーム実況動画の配信を推進しているわけでも、反対に否定しているわけでもない点にご留意ください。