今回は、著作権の応用編として、動画タイトルに著作権は認められるか、について検討してみます。
著作権の基礎については、以下の記事をご参照ください。
動画タイトルに著作権は認められますか?
結論から言うと、認められる余地はあるが、認められない可能性が高いものと思われます。
動画のタイトルの著作物性が直接争われた判例は、私の知る限り現時点ではありませんが、参考になる有名な判例として、知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)があります。
この判例は、D社が、Y社の執筆する記事の見出しをY社に無断で、D社サービス利用者に対して配信した事案で、Y社がD社に対して、著作権侵害等を理由に損害賠償請求当を行ったものです。
判例は、以下の枠内ように判断しつつも、以下の見出し等について、いずれも著作権の成立を否定しています。
「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」
「A・Bさん,赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
「道東サンマ漁,小型漁船こっそり大型化」
「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突,1人死亡」
「国の史跡傷だらけ,ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」など
「一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。」(知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)より抜粋)
動画のタイトルについても、動画の内容を簡潔な表現で(正確に)視聴者に伝えるという性質から導かれる制約があるでしょうし、使用し得る字数にも限界があることから、上記の議論は、基本的にそのままあてはまるものと思われます。
したがって、動画タイトルは、一般論としては、著作権が成立する余地はあるでしょうが、認められるハードルは比較的高いものと思われます。
動画タイトルが盗用されても何もできないの?
上記の判例は、著作権の成立はいずれも否定しつつも、デッドコピー(そっくりそのままコピーすること)であることなどを重視しつつ、不法行為を理由として、23万7741円の損害賠償請求を認めています(不法行為の説明については、こちらの記事をご参照ください。)。
つまり、著作権侵害が認められなかった場合でも、別の理由で損害賠償請求が認められる余地はある、ということです。
もっとも、動画の見出しについて、この判例の議論がどこまで当てはまるのかは、個別の検討を要することになり、また、ハードルとしては決して低いものではないものと思われます。
判例のうち、不法行為に基づく損害賠償請求を認めた点については、以下抜粋していますので、興味のある方は一読してみてください。
「不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるからこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして,ニュース報道における情報は,Y社ら報道機関による多大の労力,費用をかけた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。」そして、「本件YOL見出しは,Y社の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。」他方で、「D社は,Y社に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスがY社のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できない」「そうすると,D社のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,Y社の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。」(知財高裁平成17年10月6日判決(平成17年(ネ)第10049号)より抜粋)
以上の通り、動画タイトルに著作権が認められる余地はあるものの、そのハードルは高いものと思われます。
ただし、その態様等によって、迷惑を被るような場合には、民事上の責任が肯定される余地もあるかと思います。
YouTuberとして、動画タイトルを決定する場合には、他の動画のタイトルをデッドコピーすることは、道義的にも法的にも好ましくないですが、同じような内容を扱う動画であれば、多少似たり寄ったりすることはあるため、過度に他の動画との重複を気にしすぎることはないかと思います。
他方で、自分の動画タイトルを盗用されたような場合には、それがデッドコピーまたは実質的にみてデッドコピーに当たるといえるような場合には、何らかの法的措置を検討する価値はあるかもしれません。
なお、著作権侵害された場合の法的措置については、別の記事にまとめる予定です。