任天堂が2018年11月に個人に対して実況ガイドラインを出して以降、ゲーム実況における各社の反応や対応に注目が集まっています。
今回は、ゲーム実況の先駆け的存在である、任天堂株式会社の公表している「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を徹底解説していきます。
※なお、この記事は、2021年5月1日時点の情報をもとに執筆しています。
1. ガイドラインとは?
まずは、ゲーム実況における「ガイドライン」の位置づけを確認しておきましょう。
ゲーム実況における「ゲーム」は、著作物法上の著作物であり、著作権法の保護を受けるものであるため、ゲーム実況を行う場合、他者の著作物を利用することになります。
日本法上、著作権の保護を受けるためには、何らの手続きも必要ないため、市場で流通しているほぼすべてのゲームが、著作権法の保護を受けている状態と考えて良いでしょう。
したがって、ゲーム実況は、原則として、著作権者の許諾の範囲内でゲーム実況を行う必要があります。
この「著作権者の許諾の範囲」を示すものが、「ガイドライン」であり、ガイドラインを遵守している限り、著作権侵害となりません。そのため、ゲーム実況者にとっては、極めて重要な存在と言えます。
この点に関する詳細は、以下の記事を参考にしてみてください。
2. 任天堂株式会社のガイドラインの詳細
任天堂株式会社(以下「任天堂」といいます。)の最新かつ詳細なガイドラインは、上記のリンクよりご覧ください。
ガイドラインでは、投稿先に関する制限や、動画の内容に関する制限、収益化に関する制限など、さまざまな制限が課せられており、これらのルールを遵守してゲーム実況を行う必要があります。
以下、重要な点を抜粋して解説していきます。
⑴ 許諾の対象となる著作物
まずは、許諾の対象となっている著作物を確認していきましょう。
対象は、「任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット」です。ポイントは、①任天堂が著作権を有するゲームであること、②当該ゲームからキャプチャーした映像及びスクリーンショットであることです。
任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。あらかじめご了承ください。
まず、①の点は、ガイドライン上以下の通り明示されている通りですが、ゲーム中に他の著作者の著作物が含まれている場合や、当該ゲームに任天堂以外の著作者が存在する場合には、ガイドラインの対象とはならず、他の著作者からの許諾を取得する必要があります。
投稿に任天堂以外の第三者が有する知的財産権が利用されている場合、このガイドラインとは別に、その知的財産権の権利者から許諾を得る必要があります。
例えば、ポケモンシリーズについては、任天堂以外に著作権者が存在するため、ガイドラインの対象となりません。ポケモンシリーズについては、以下の記事をご参考ください。
次に、②の点は、動画及び画像が許諾の対象となっており、動画本編での利用に加え、サムネイルでの使用も許諾されています。ただし、「ゲームからキャプチャーした」ものである必要があるため、インターネット上など、ゲーム以外からキャプチャーしたものは対象外となります。また、ゲーム以外の著作物については、以下の通り、ガイドラインの対象外であることが明示されています。
Q6.ゲームのプレイ動画やスクリーンショット以外の任天堂の知的財産に基づいて創作したもの(例えば、ファンアート等)を投稿することは、このガイドラインの対象ですか。
A6.このガイドラインは、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画を、適切な動画や静止画の共有サイトへ投稿することを対象としたものです。これ以外の任天堂の知的財産の利用や創作は、各国の法令上認められる範囲内で行ってください。なお、任天堂は、お客様の著作物の利用が法令上認められる範囲のものであるかどうかについてのお問い合わせにはお答えいたしかねますので、あらかじめご了承ください。
また、任天堂の著作物であるゲームであっても、正式な発売日前のゲームなどは、許諾の対象外であるため、ゲームソフトデータが流出したような場合や、関係者等から個別に入手したような場合などは許諾の対象外となります。
お客様は、正式な発売日またはサービス開始日を迎えた任天堂のゲーム著作物を、投稿に利用することができます。正式な発売日またはサービス開始日を迎えていないものに関しては、任天堂が公式に公開した任天堂のゲーム著作物のみを投稿に利用することができます。
⑵ 投稿先に関する制限
動画の投稿先については、「適切な動画や静止画の共有サイト」、つまり、「一般的に利用されている動画や静止画の共有サイト」に限定されています。
具体例として、YouTubeや、Twitter、ニコニコ動画が挙げられています。もっとも、あくまでも例示であるため、これら以外のサービスであっても、一般的にゲーム実況に使用されているサービスであれば、問題ないものと考えられます。
なお、個人のブログ、ホームページ、SNSが対象に含まれていない点に注意が必要です。
任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。あらかじめご了承ください。
Q3.「適切な動画や静止画の共有サイト」とは、どのようなサイトですか。
A3.多くの方が一般的に利用されている動画や静止画の共有サイト、例えば YouTube や Twitter、ニコニコ動画等を想定しています。ただし、任天堂は、そうしたサイトへの投稿でも、内容が不適切なものや、ガイドラインに従わないものを削除することがあります。
Q10.どのような場合に、任天堂から投稿を削除されますか。
A10.任天堂は、ガイドラインに従わないものや、投稿先が適切でないものなど、不適切な投稿を削除する場合があります。
また、任天堂以外の知的財産権の権利者から依頼を受けて、その権利者に代わって投稿を削除する場合もあります。
また、動画共有サイトであっても、Mildomのように任天堂の著作物の投稿が禁止されているサイトもあるため、利用する動画投稿サービスの利用規約において、禁止規定がないか確認するようにしましょう。
なお、ストリーミング配信は、「一般的に利用されている動画や静止画の共有サイト」における配信である限り、明示的に許諾されています。
Q2.このガイドラインは、動画の投稿のみを対象とするものですか。あるいは、動画のストリーミング配信も対象とするものですか。
A2.お客様が事前に制作した動画を投稿することも、ストリーミング配信を行うことも、このガイドラインの対象です。
⑶ 収益化に関する制限
原則として、非営利目的に限り、著作物を利用することができるものとされていますが、「別途指定するシステム」による場合には、収益化が可能とされています。
個人であるお客様は、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画等を、営利を目的としない場合に限り、投稿することができます。ただし、別途指定するシステムによるときは、投稿を収益化することができます。
「別途指定するシステム」は、以下の通り具体的に列挙されているため、以下のいずれかのサービスを利用する必要があります。
Q4.このガイドラインにおいて投稿を収益化することができる「別途指定するシステム」とは、具体的にはどのようなものですか。
A4.現時点において、このガイドラインにおいて投稿を収益化することができる「別途指定するシステム」とは、以下のものをいいます。
Facebookの「Facebook Game Streamer」および「Facebook Level Up Program」
ニコニコ動画/生放送の「クリエイター奨励プログラム」および「ニコニコチャンネル」
OPENREC.tvの「OPENREC Creators Program」
Twitchの「Twitchアフィリエイトプログラム」および「Twitchパートナープログラム」
Twitterの「Amplify Publisher Program」
YouTubeの「YouTubeパートナープログラム」
TwitCasting の「ツイキャス・マネタイズ」内の「ライブ収益」(2019/4/1追加)
Mirrativの「ギフト」(2019/4/1追加)
随時更新されます。
また、動画そのものの販売は、明示的に禁止されており、有料会員のみが視聴できる形での動画の配信も禁止されているものと考えらえます。
Q5.任天堂のゲーム著作物を利用して創作した動画を、動画の共有サイトへ投稿しました。私はこの動画を販売することができますか。
A5.任天堂のゲーム著作物を利用して創作した動画や音楽、静止画等を、任天堂の許可なく販売しないでください。
⑷ 投稿者の属性に関する制限
ガイドラインは、原則として個人のみを対象にするものであり、法人は対象となりません。
また、「投稿者が所属する団体の業務として行う投稿」もガイドラインの対象外とされているため、個人名義で活動しつつも、実質的に法人の活動であったり、芸能事務所等に所属している個人による動画投稿等は対象外と考えられます。
もっとも、法人との間で、包括的利用許諾契約を締結している例が複数あるため、法人であっても、交渉の余地はありうるものと思われます。
Q9.法人が、任天堂のゲーム著作物を使った投稿をすることは、このガイドラインの対象ですか。
A9.このガイドラインは、個人であるお客様による任天堂のゲーム著作物の投稿を対象としています。法人等の団体による投稿や、投稿者が所属する団体の業務として行う投稿は、このガイドラインの対象ではありません。ただし、別途契約が締結された以下の法人に所属する投稿者は、所属する団体の業務として行う投稿であっても、個人であるお客様と同様に、このガイドラインに従って、任天堂のゲーム著作物を利用した投稿を行うことができます。(2020/6/1 追記)
UUUM株式会社(吉本興業所属を含む)
株式会社ソニー・ミュージックマーケティング
株式会社東京産業新聞社(ガジェット通信)
いちから株式会社
カバー株式会社(2020/8/1 追加)
株式会社アップランド(2020/8/1 追加)
株式会社クリーク・アンド・リバー社(The Online Creators)(2020/8/1 追加)
株式会社STPR(2021/1/1 追加)
⑸ 投稿動画の内容に関する制限
投稿する動画の内容に関しても、いくつかのルールが設定されています。
まず、動画には、創作性・独自性が要求されます。つまり、単なる「ゲームプレイ動画」は、許容されず、声による実況や、文字によるコメントなど、オリジナリティのある作品に仕上げる必要があります。一般的な「ゲーム実況動画」である限り、この点は問題ないかと思います。
任天堂は、Nintendo Switchのキャプチャーボタン等の機能を利用する場合を除いて、お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております。お客様の創作性やコメントが含まれない投稿や任天堂のゲーム著作物のコピーに過ぎない投稿はご遠慮ください。
また、「違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿」については、法的措置を講じる旨が記載されています。
任天堂は、違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿、このガイドラインに従わない投稿に対して、法的措置を講じる権利を保持しています。
以下のとおり具体的な例示も示されており、例えばチートや改造ソフトなどは禁止の対象とされています。
Q11.「違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿」には、どのようなものが含まれますか。
A11.「違法または不適切な投稿や公序良俗に反する投稿」には、以下のものを含みますが、これらに限定されません。
各国の法令に違反するもの
任天堂の知的財産権を侵害するもの
任天堂の商品またはサービスの正常な動作を妨げたり、安全性を損ねたりする行為
不正にコピーされたゲームソフト、改造されたゲームソフト、任天堂の許諾を受けずに任天堂の著作物を利用して制作されたゲームソフト、または不正に入手されたゲームソフト
チート、クラッキング、不正アクセス、技術的制限手段の回避、不正な改造またはこれらを可能にする物、ツールもしくはサービス
もっとも、これらはあくまでも例示です。この点は、やや曖昧なルールではありますが、自己のゲーム実況動画は、あくまでも「任天堂のゲームソフトの広告」動画として無料で使わせてもらっているものであることを意識するようにしましょう。
例えば、政治目的の動画など、ゲーム実況以外の点に主眼のある動画や、ゲーム実況の中で、差別的言動を行っているケースなどは、任天堂にとって不利益な動画となりかねず、また、ガイドラインの趣旨にも反しており、不適切とされる可能性があります。
特に、ゲーム実況中の言動(汚い言葉など)については、一般的に見て許容される範囲内の言動であるかという点に注意を払う必要があります。
また、ゲームの一場面を面白動画の一シーンに組み込むなど、ゲームと無関係な動画に編集することなどは、不適切と評価される可能性がありますし、ゲームの内容を誤解させるような過度な編集も不適切と評価される可能性があります。例えば、部屋Aが部屋Bにつながっているところ、編集によって部屋Aが部屋Cにつながっているように見せかける、などといった行為は禁止されます。ただ、編集自体が禁止されているわけではないので、別々のシーンであることが視聴者に認識できる形で、中盤のゲーム実況部分をカットする、といった取り扱いは問題ありません。要するに、視聴者に誤解を与える内容であるか、という点が重要です。
⑹ その他の注意点
また、公式動画であると誤認させることは許容されておりません。したがって、動画の内容はもちろん、動画タイトルや説明欄、チャンネル名称等、視聴者が任天堂の公式動画であると誤認するような態様をとることは許容されていません。
お客様が事実に反して、任天堂や任天堂の関係者から、協賛や提携を受けているようなことを示唆したり、誤信させたりしないでください。
最後に、ガイドラインは随時更新される点に注意が必要です。ゲーム実況動画を投稿する際は、常に最新のガイドラインを参照し、そのルールに従う必要があります。
このガイドラインおよびQ&Aは、随時更新されますので、投稿前に必ず最新のガイドラインおよびQ&Aをご確認いただきますようお願いいたします。
3. この記事のむすび
以上、任天堂の公表したガイドラインを解説しました。
任天堂のガイドラインは、ゲーム実況に関するガイドラインの先駆け的存在であり、また、比較的緩やかかつ合理的な内容と言え、今後他社において同種のガイドラインが出される可能性も高く、その意味でも把握しておくことは重要といえるでしょう。
また、著作物の利用に関するガイドラインは、投稿動画の違法性や、動画の収益化に関わる部分であり、クリエイターにとって、極めて重要な部分です。
常に最新のガイドラインを参照し、ガイドラインの意味を正確に理解したうえで、動画投稿を行うようにしましょう。
ガイドラインの重要性等については、以下の記事を参照してみてください。